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お知らせ

月刊専門誌「運転管理」2月号(モビリティ文化出版(株))の『判例研究』を執筆しました(担当者:野田聖子弁護士)
2005-02-10
月刊専門誌「運転管理」2月号『判例研究』(担当者:野田聖子弁護士)
今回は、自転車が、片側一車線道路で後退する普通貨物車を避けて対向車線で大型貨物車と衝突した事案を取り上げます(札幌地裁平成16年4月22日判決、自動車保険ジャーナル第1563号20頁)。

(事故の概要)
事故の内容は、次のようなものでした。
●日時●平成11年11月8日午前8時30分ころ
●場所●北海道美唄市
●態様●
X(14歳女子中学生)が、片側一車線道路路側帯を自転車で進行中、被告Z運転の普通貨物車が左側駐車場に入ろうと後退してきたため、対向車線に入って被告Y運転、Y会社所有の大型貨物車と衝突しました。

(争点)
裁判では、Xの過失をどのように判断するかが主な争点の一つとなりました。

(裁判所の判断)
裁判所は、まずZの過失について次のとおり判断しました。Zは、「後方から直進する車両等を妨害することのないように(道路交通法25条の2)、十分に後方を確認する義務があり、この時点で原告運転車(以下、本稿では「Xの乗った自転車」といいます)を発見することができたにもかかわらず、後方を十分に確認しなかったために、Xの乗った自転車を発見しないまま、Z運転車の後退を開始させたのであって、この時点でXの乗った自転車に気が付いてZ運転車を停止させていれば、少なくとも、Xの乗った自転車が、停止しないまでも、対向車線の車道を横断せずに、車道中央線付近を走行し、Y運転車と衝突することもなかったという可能性もないわけではないから、本件事故についてZが無過失であったということはできない。」

次に、Yの過失について次のとおり判断しました。「Yは、法定の制限速度(時速50㎞)を遵守して走行する義務があり、Xの乗った自転車を発見した時点でY運転車の速度が時速50㎞であれば、YがXの載った自転車を発見後直ちにブレーキのペダルを踏むことによって、本件事故を避けることが不可能ではなかったといえるから、本件事故についてYが無過失であったということはできない。」

一方、Xの過失については、次のとおり判断しました。Xは、「Z運転車の後退を開始してから後に、Xの乗った自転車を停止すれば、自転車とZ運転車との衝突を避けることができたにもかかわらず、停止せずに、対向車線の車道を横断して歩道に出ようと考えて、車道中央線を越えて対向車線の車道に進入し、Y運転車と衝突したというのであるから、本件事故についてXに過失相殺の対象となるべき過失があると言わざるを得ず、この過失割合(絶対的過失割合)を4割とすることが相当である。」

なお、YとZは、Xとの関係で共同不法行為(民法第719条1項)となりますが、YとZの過失割合は、この裁判では判断されていません(今後、YZ間で過失割合が決まることになります)。

(車両を後退させるときの注意点)
本稿では、車両を後退させたZに焦点をあて、車両を後退させるときの注意点について考えてみます。

道路交通法第25条の2第1項には、「車両は、歩行者又は他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるときは、道路外の施設若しくは場所に出入りするための左折若しくは右折をし、横断し、転回し、又は後退してはならない。」と規定されています。

そして、「他の車両等の正常な交通を妨害するおそれがあるとき」とは、道路の幅員、車両の大きさ、交通量、他の車両との距離とその速度、後退等の方法やそれに要する時間などの具体的状況に照らし、後退等によって他の車両等に直ちに事故発生の危険を及ぼすような場合はもちろん、車両等の運転者をして事故発生を避けるために急制動、一時停止、徐行あるいは異常な進路変更など従来からの運転方法を著しく変更させる措置をとることを余儀なくさせるような場合も含む、と解されています(大阪地方裁判所昭和48年3月22日判決・判例タイムズ297号392頁)。

本件では、Zが車両を後退させたことにより、Xが少なくとも一時停止する必要はあったと考えられること等から、Zの過失が認められています。Xの絶対的過失割合が4割も認定されていますが、これはXが停止すればZ運転車との衝突が避けられたにもかかわらず、停止せずに、あえて対向車線に入ったことが考慮されたものです。

通常は、道路外出入車と直進車との事故については、直進車には軽度の前方注視義務がある一方、流れに逆らう道路外出入車にはより重い注視義務が課せられます。別冊判例タイムズNO.15「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」【37】(P99)によれば、後退車両が歩行者に衝突する事故について、歩行者が車両の直後を横断していた場合には、基本過失割合として車両80:歩行者20、歩行者が車両の直後でない場所を横断していた場合には、基本過失割合として車両95:歩行者5、とされています。

車両を後退させるときには、他の車両、自転車、歩行者等の通行を妨害しないよう十分注意することが必要です。

以上

「運転管理」平成17年2月号より掲載。但し、表現が一部異なる部分があります。
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